第1 当事者に関して 1 原告は、北海道に居住する住民である。 2 被告は、地方自治法第242条の2第1項第4号の規定により、執行機関として北海道が受けた 損害について賠償請求をすべき義務を有する者である。 3 被告が請求すべき支払い請求先の各人は、平成20年度(2008年4月〜2009年3月)において、 北海道議会議員であった者である。 第2 本件の概要 平成20年度において、北海道議会議員に対して政務調査費として交付され、各議員が2009年 4月30日迄に北海道議会議長に対して届け出た収支報告書において 「人件費」として使用したと した金額の内の一部に関し、北海道知事が返還請求をする事を求めるものである。 第3 住民監査請求との関係 −−−(省略)−−− 第4 監査に関して 原告が請求した住民監査請求により実施された北海道監査委員による監査は、極めて杜撰なもの であり、監査の形をなしていないものである。 監査結果報告書によれば、監査請求を受理した2009年8月24日の後に行った事は、原告の陳述 書を確認した他は、9月7日に北海道議会事務局に対して支出事務等の調査を行い、9月10日に同 事務局から聴取を行ったのみである。 監査結果には、その後、9月28日付けで道議会各派幹事長会議が取りまとめたという自主的調査 の結果の提出を受けたとの記載があるが、各議員に関する具体的な記載もなく、単に、その自主的 調査の結果の概要を何の評価も無しに掲載しているのみである。 9月7日の調査は、政務調査費に関する通常の事務方法等を確認したものに過ぎず、9月10日の 聴取は、事務局の一般的な見解を聴取したのみで、適切な監査と言えるようなものではない。 通常、”監査”には、監査委員が直に、直接の当事者(本件の場合は各議員)に対しての調査をする 事が最低限必要である。 本件の場合、「人件費」として使用したと届けている各議員に対して、各支払先、各支払い先毎の支 払い金額、按分比率、各支払い先に対する支払い総額(按分前の金額)は、監査委員として必ず確認 しなければならない内容であるにも関わらず、そのような点に関して、全く調査をしていない。 平成20年度の政務調査費の支出報告書において、人件費に関しては、領収書の提出が全くなされ ていないのであるから、上記の点の調査無しには、全く”監査”と言い得ないものである。 道議会各派幹事長会議がとりまとめたという自主的調査の結果は、具体的な記載が無い形で、各 議員が「会計帳簿や領収書等証拠書類の原本は議員事務所等で保存している」などと一般的な内容 が記載されているが、その内容に関する監査委員の判断さえもなく、とても監査をしたと言えるような ものではない。 原告は、監査が、ある程度でも真っ当に実施されたのならば、その結果を受け入れようと考えてい たが、このような全く”監査”と言えないような結果を示されては、提訴せざるを得ないと考え、当訴訟 の提起に及んだ次第である。 尚、当訴訟の内容は、監査請求時の内容と比較して、返還請求すべき相手を削減しているが、その 理由は、訴訟遂行上の理由の他に、「人件費」としての使用金額が極めて高い議員のみにしぼった為 であり、使用金額がそれ以下の議員の分に関しても、妥当であると考えている訳ではないので、念の 為、申し添える。 第5 法令等の規定と請求内容等 地方自治法第100条第14項には、「普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会 の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対 し、政務調査費を交付することができる。」という規定があり、北海道においても、 「北海道議会の 会派及び議員の政務調査費に関する条例」が制定され、同条例により、平成20年度においては、 各会派に対しては所属する議員1人当たり月額10万円が、各議員に対しては月額43万円が交付 されている。 会派の代表者及び議員は、「北海道議会の会派及び議員の政務調査費に関する条例」第9条の 規定により、年度終了日の翌日から起算して30日以内に、政務調査費に係る収入及び支出の報 告書(以下「収支報告書」と称す)を議長宛に提出する事になっているが、2009年4月30日迄に提 出された収支報告書によれば、平成20年度に交付(支給)された総額は 6億5790万円以上で、使 用額(支給額から返却額を引いた額)は6億4853万円以上であるが、 その内、各議員に対して交 付された額は5億3320万円以上で、使用額は5億2436万円以上であり、その内、人件費として使用 された金額は、1億6721万3575円である。 政務調査費の使用に関しては、上記地方自治法第100条第14項の規定により運用されなけれ ばならないが、北海道議会の場合、「北海道議会の会派及び議員の政務調査費に関する条例」 第8条において、”政務調査費は、別に定める使途基準に従い、使用しなければならない。” とされ、それを受けて、「北海道議会の会派及び議員の政務調査費に関する規程」の第4条及び 別表第2において、議員に係る政務調査費の内の人件費は、”議員が行う調査研究を補助する 職員を雇用する経費”と定められている。 同規定は、議員自身が政務調査を実施する際に、それを”補助する”為に人件費を計上する事 が可能であるとしているのみであり、その場合の「政務調査」とは、条例の制定や改定等の際に おける”特定の調査”と解すべきであり、又、その調査に関する雇用形態は臨時的な雇用を想定 していると解すべきであって、議員の政治活動全般に関与する秘書等の給与等を支払ってもよい とされている訳ではない。 又、「北海道議会の会派及び議員の政務調査費に関する条例」第9条第1項において、収支報 告書は別記第2号様式にて提出しなければならない旨が定められていて、第2号様式の欄外に は、「備考欄には、主たる支出の内訳を記載する。」という注意書きがある。 しかるに、2009年4月30日迄に各議員より提出された平成20年度の収支報告書の人件費に関 する記載によれば、備考欄に何も記載していないものや「人件費」と記載しているもの、秘書の給 料である旨記載しているものが有る他、明らかに秘書と同様の業務を行っていると看做される常 用雇用と思われるものが大部分であり、臨時雇用である旨記載しているものに関しても、政務調 査費として、上記法令・条例・規程に合致した使用内容であると判断できるものは無い為、議員が 使用した政務調査費の人件費分に関しては、全て、目的外使用につき違法である。 仮に、「按分」という考え方により、一部を認める場合においても、会計帳簿のみならず、源泉徴 収票等により支払総額を正確に確認する必要がある。 又、按分比率も、一定の割合で認めるのではなく、支払いを受けた者の全体の勤務時間と具体 的な特定の調査研究の補助をした時間を記録により確認した上で、個々に認定すべきであろう。 政務調査費として支払いが可能な「人件費」に関する原告の基本的な考えは、上記の通りであ るが、当訴訟においては、50%の按分を認めた。 返還請求すべきであるとはしなかった半額に関しても、問題が無いと考えている訳ではないの で、念の為、申し添える。 各議員により長期間継続して雇用された者は、その多くの時間を後援会活動等を含む議員活動 全般に関する業務を行っている事は明らかであり、”政務調査”と言う事のできない活動に関する 部分(少なくとも50%)は、目的外使用である。 目的外使用の分に関しては、違法行為により、北海道に対して損害を与えたものであるから、 北海道知事は、目的外使用をした議員に対し、当該金額の返還を請求しなければならない。 −−−(以下省略)−−− |