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北のオンブズ村


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陳述書




第1 人件費支払いと源泉徴収

 政務調査費の支払いについて監査が行なわれた過去の事例において、その調査内容として重 要なものに"源泉徴収に関する記録"があるので、人件費と源泉徴収の関係について、その概要 を示す。

   当該関係において、まず知っておくべき事は、所得税法の規定により、俸給、給料、賃金、歳費 及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下「給与等」と称す)の支払いをする者には源泉徴 収義務が有るという事である。(所得税法第183条、第28条)

 この義務は、支払者の立場(法人・個人)を問わないものであり、又、その業務の内容や支払う 金銭の供給元を問わないものであるので、北海道議会議員が政務調査費から支払う人件費に関 しても、当然、源泉徴収義務が生じている為、給与等の支払がなされた全ての者に関し、各年別 に(源泉徴収額の有無に関わらず)源泉徴収票が存在しなければならないという性質のものであ る。(所得税法第226条・・・源泉徴収票の発行義務)

 又、源泉徴収票を発行する作業の前提として、支払者は、支払う金額の中から源泉徴収を行い、 原則として毎月(「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を事前に提出し承認されて いる場合には半年毎に)税務署に納付しなければならず、納付額が0円の場合においてもその旨 を記載した納付書を提出する必要があるので、支払額や納税額の金額が記載された会計帳簿や 税務署の受領書等が存在する為、それらの文書等により、支払いの事実が確認可能である。(所 得税法第183条、第216条、等)

 更に、年末調整が必要である者(同法第190条)の場合には、その関係の書類も、当然、保存さ れている訳であり、又、支払いを受けた者に交付した源泉徴収票と同内容のものを同法第226条 の規定に従って税務署に提出する必要があり、更に、支払いを受けた者の住所所在地の市町村 には、地方税法第317条の6の規定に従って源泉徴収票とほぼ同形式の給与支払報告書(個人 別明細書)及びその総括表を提出する必要がある為、それらの控えも通常存在する訳である。

 源泉徴収額に関しては、給与等の支払い形態により「月額表」又は「日額表」が適用され、雇用 された者から「扶養控除等申告書」が提出されているか否かや雇用契約期間等の条件により「甲 欄」「乙欄」「丙欄」 のどれを適用するが決まり源泉徴収額が決定されるが、例えば、毎月一定金 額を支払っている場合には、「月額表」の「甲欄」か「乙欄」の適用となるので、「甲欄」適用の場合 には、扶養控除等申告書が存在するし、「乙欄」適用の場合には、給与等の支払い金額が少額 であっても源泉徴収金額が発生するので、いずれの場合であっても、確認は、容易にできるもの である。

 もし、上記の書類等が確認できない場合には、実際の支払いが行なわれていないか又はその 金額が正しいものではない可能性が極めて高いので、政務調査費の支出としては、認容されざ るものであると言える。
  


第2 同様の事例における監査結果について

 政務調査費に関する監査結果において多数の目的外支出が認定され返還勧告が出された例 として、大阪府議会議員が平成16年度及び平成17年度において使用した政務調査費に関する 住民監査請求に対し大阪府監査委員が2007年6月に公表した「住民監査請求に係る監査結果」 がある。(勧告:平成19年6月15日付け府監第1291号)

 その監査結果は、按分割合等に関しかなり甘いものではあるとは言え、目的外使用の内容に ついて様々な形態が存在する事を公表し、注意を喚起しているので、当請求に関する監査の実 施の際の参考になるものであると考える。

 当該勧告においては、人件費に関し、次のような支払い分が、目的外使用であると認定されて いる。

・ 後援会の事務をしている事務員の社会保険料全部
・ 領収書のない福利厚生費(夜食代など)全部
・ 事務所の賃貸人の従業員への支払い分全部
・ 2枚提出された源泉徴収票(同一人で同一年分)の内の1枚分の支給額全部
・ 支出の裏付けがない事務員への市払い分全部
・ 源泉徴収票や領収証の提出がなく詳細不明である分全部
・ 源泉徴収票に記載されている支払額を超える分全部
・ 秘書・事務の事務員の給与で議員が受け取る顧問料と相殺により支払われている分全部
・ 支払いを認めるに足る資料のない臨時補助員への支払い分全部
・ 支給実績が認められない事務員の支払い分全部
・ 支払いを証するもののないアルバイトへの支払い分全部
・ 電話番、お茶出し、郵便物の受取り等にきてもらっている者への支払い分全部
・ 会社の従業員を使用していて支払いを証するもののない事務所清掃費全部
・ 詳細不明な事務員の日当分全部
・ 関連会社からの支払いである事が源泉徴収票に記載されている分全部
・ 収支報告書と調査結果が異なっている分の差額全部
・ 支払いの客観的な証拠がない派遣社員に関する会社への支払い分全部
・ 支払いや受領を証する書類のない賃金全部

・ 事務を手伝っている妻への支払いの内の1/4を超える分
・ 主に電話番として雇用した人への支払いの内の1/4を超える分
・ 客観的に根拠づけるものが提出されていない事務員への支払いの内の1/4を超える分

・ 議員の子供である事務員への支払いの内の1/2を超える分
・ 臨時秘書・車両運転及び管理の者への支払いの内の1/2を超える分
・ 社会保険労務士業を兼任している事務員への支払いの内の1/2を超える分
・ 受取書などの裏付けはない者への支払いの内の1/2を超える分
・ 後援会活動を兼務している事務員への支払いの内の1/2を超える分


 −−−(中略)−−−


第3 総括

 近年、”政治と金”に関する住民の意識は、極めて厳しいものに変わってきている。
 特に、政務調査費に関しては、全国各地において、情報公開請求・住民監査請求・住民訴訟等 が多数提起され、様々な問題点が明らかになってきている。

 北海道においても、新聞・テレビ・雑誌等で政務調査費問題が頻繁に取り上げられ、多くの議員 の意識が一般的な住民の意識と大きくかけ離れている事などが報道され、又、本年、当請求以外 にも、北海道議会議員の政務調査費についての住民監査請求が出されていると伝えられている。

 問題点の一つは、多くの議員が、政務調査費を議員活動全般に関して使用してもかまわないと 考えていることであろう。
 地方自治法には、明確に、「議員の調査研究に資するため必要な経費の一部」と記載されてい て、それ以上の支払いを認めてはいない。
 議員としての活動には、次の選挙を見据えた「後援会」に関する活動や所属政党等に関する政 治活動が含まれていることは、殆どの住民は知っているのである。
 それらは、”調査研究”と言えるはずのないものであるので、政務調査費からの支出としては、認 められる余地のないものである。

 現行法制度において、議員に対して公費負担での秘書が正式に認められているのは、国会法 第132条により付する事を認められている国会議員のみである。
 地方議会議員が政務調査費の人件費項目で秘書又は実質的に同様の業務を行なう継続勤務 者を公費で雇用するのは、政務調査費で支払い可能な内容に関する不当な拡大解釈であり、地 方自治法により容認されている範囲を超える部分の支払いについては、明確な違法行為であると 言える。
 一部の議員においては、平成13年3月に出された「政務調査費の手引」という冊子において、 「議員に係る政務調査費の使途基準」の「人件費」の「活動」の欄に、”秘書の雇用”と記載されて いる事をもって、秘書の給与を政務調査費から支出しても何ら問題はないと考えて公言している 者がいるようであるが、それは、法令や条例等の効果に関する解釈上、明らかな誤謬である。
 その冊子は、政務調査費に関する条例および規程を新規に制定する為の原案として事務局が 作成したものであり、実際に制定され公表されている「使途基準」には記載されていないものであ るので、基本的に法的な効果を持ち得ないものであり、「活動」欄が削除された「使途基準」が作 成された事は、むしろ、当該記載内容が妥当ではない事を示すものである。
 又、今後、もし、秘書給与を全面的に支払っても良いというような条文が定められたような場合 には、その内容自体が「地方自治法」の明文規定に反する為に、当該規定の内容は法的に無効 であると言えるものとなるのである。

 ”調査研究”の活動に関し補助者を雇用する場合の経費に関しても、公費負担をする場合、そ の内容や雇用期間は充分に確認される必要がある。
 平成20年度における北海道議会の会期期間の日数は休会日を含めて97日間(本会議開催日 数はその内の38日間、本会議開催日以外の委員会開催日数は19日間)であり、会期期間以外 における委員会の開催日を全て加えたとしても1年間に130日に満たない日数である。
   したがって、その他の公に参集義務のある日数を考慮したとしても、議員自身が1人で”研究調 査”に携わる時間は充分に確保されているのであるから、政務調査費の人件費項目で補助者を 雇用するのは、1人で行なうのは極めて困難な場合や特殊な技能等が必要な場合に限定される べきであると言える。
 各議員には、議会が開かれていない期間に関しても議員報酬が支払われているのであるから、 議員自身ができる事は自分で行なった上で、どうしても必要な場合にのみ、”調査研究”の為の 補助者を雇用できる場合がある旨の規定であると理解しなければならない。

 担当する監査委員の方には、当陳述書の各内容を御理解いただき、充分な調査と確認を行な った上で、住民感覚に合致した判断がなされる事を期待するものである。