選挙の公費負担に関しては、住民監査請求や住民訴訟が全国各地で提起され、多くの
問題点が明らかになってきているが、自分が現在住んでいる地域の現状はどうであるの
かを確認するため、選挙に関する収支報告書の閲覧や情報開示請求により調べてみたと
ころ、これまで公けにされている他地域と比較しても、極めて問題が大きいと感じる状
況であった。 総合的にみて最も問題が大きいと感じたのは、2007年4月の統一地方選における北海 道議会議員選挙帯広市選挙区の3候補(無投票で全員当選)に関するポスター印刷費用 の請求で、「単価」「枚数」ともに、通常の市民感覚から大きくかけ離れた内容であっ た。 3候補に関するポスター印刷の請求単価、請求枚数、請求金額、等を次に示す。 尚、3候補ともほぼ同様の請求内容である為、個々の候補者の問題という面よりも、 不適切な条例( 「北海道議会議員及び北海道知事の選挙における選挙運動の公費負担に 関する条例」 )を改めない北海道議会全体の問題であるという面がより大きいと考えら れるので、とりあえず、各候補者の名前及び印刷会社名は伏せて示すことにする。 |
問題点その1 (請求単価に関して)
請求単価の上限は、各選挙区のポスター掲示場の設置数により異なり、条例に示され ている係数を用いて計算されるが、帯広市選挙区の場合、当該選挙時における掲示場数 は357箇所であり、その場合の請求単価上限は、1,357円となる。 (計算式) この請求単価の上限は、同様の大きさで数百枚をカラー印刷する場合の通常のポスタ ー印刷単価と比較して、あまりにも高額である。 インターネット上で検索すれば、同様な形態・枚数のポスター印刷の場合、原稿作成 料金も含めて300円程度の単価で作成できるところが多数確認できるが、地元の印刷会 社で従来の方法での印刷を依頼するとしても、上記請求上限金額1,357円の半額程度で の契約は、十分に可能であったことを、以下に証明する。 2007年4月8日投票の北海道議会議員選挙の2週間後の4月22日に行なわれた町村議 会議員選挙に関し、帯広市に隣接する音更町議会議員選挙(ポスター印刷代金の公費負 担無し)の収支報告書及び添付の領収書を閲覧し、ポスターを印刷した業者等を調べて みたところ、上記T社、S社、D社に依頼している候補者もいた為、各候補者のポスタ ー印刷代金等を確認してみた。 当該3社の分について、検証の為の計算が可能である候補者における単価は次のとお りである。 |
尚、山本候補の「73,500円」は、ポスター以外の印刷代金分も含まれいる可能性
がある額であり、又、大場候補の「74,025円」は、選挙葉書の印刷代金分が含まれ
ている額なので、両候補のポスター印刷代金の表示には、「以下」を付け加えてい
る。 又、各候補者のポスター印刷枚数は、明確ではないが、音更町のポスター掲示場 数は105であるため、それ未満の数のポスターを発注する事は考えられない為、全て、 「105枚以上」とした。 「以上」「以下」の表現を考慮し計算すると、最右列に示す単価となる。 音更町議選における上記5候補の平均単価は655円(以下)であるが、一般的に、 枚数が多くなるにつれて単価は下がる事を考慮すれば、数百枚の印刷を依頼すれば、 単価は、更に下がることは明白である。 音更町の議会議員選挙で使用できたポスターが、北海道議会議員選挙で使用でき ないなどということは、到底、考えられない。 したがって、単価に関する現在の上限金額1,357円の半額程度での契約は、十分に 可能であったと言える。(証明終わり) |
問題点その2 (請求枚数に関して)
現在、北海道議会議員選挙において、公費負担の請求が可能な最大枚数は、条例に より、各選挙区における「ポスター掲示場の数に2を乗じて得た数」と定められてい て、帯広市選挙区の3候補もその上限値での請求となっているが、「2倍」などとい う上限は、とんでもない決め方である。 「2倍」は、張替えの為に必要な数として定められたという説もあるが、たった 9日間の選挙運動期間に、数百枚の全てのポスターを張り替えたなどという話は、 寡聞にして、聞いたことがない。 汚れた箇所のポスターを張り替える予備分としては、極く少数があれば良いであろ うし、選挙事務所内等に使用する分もさほどの数ではないであろう。 それらの枚数分は、各候補者の判断で追加するものであるから、当然、各候補者が 自己負担すべき性質のものである。 又、条例の規定では、ポスターの作成枚数を選挙管理委員会が「確認」するという ことになっているが、選挙管理委員会事務局の担当者に業務の遂行方法を聞いてみた ところ、「申請書の上で確認」するのみで、印刷されたポスターの実際の枚数を確認 している訳ではないということである。 掲示場数迄の分ならば、印刷した事は明らかであろうが、それ以上の分に関しては、 当事者(候補者および印刷業者)以外は通常知りえない事柄であるから、住民に疑念 を持たれる可能性が高く、公費の使用が許されざるものであるというべきである。 「ポスター掲示場の数に2を乗じて得た数」は、半減して、「ポスター掲示場の数」 に改めなければならない。 |
結論と提言
地方公共団体の財政の運営等に関し、「地方財政の健全性を確保し、地方自治の発達 に資すること」を目的として制定されている”地方財政法”という法律がある。 同法第4条第1項は「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最 少の限度をこえて、これを支出してはならない」と定めているが、問題点その1で証明 したように、北海道議会議員選挙におけるポスター代金の公費負担に関する請求単価の 上限は、あまりにも高額過ぎて、この規定に明らかに違反している。 又、問題点その2で示したように、請求枚数の上限は、速やかに半減すべきである。 上記法規定は、経費に関する条例の定めは実態に応じて常に見直す必要があるという 趣旨を含む規定であると言えるが、現状においては、ポスター印刷代金の公費負担は、 請求単価の上限を半額以下にし、請求枚数の上限を半減することにより、請求金額の上 限を4分の1以下にする必要があるという結論となる。 2007年の北海道議会議員選挙における、ポスター印刷代金の公費負担の総額は1億 2000万円を超えると報道されているが、その金額を基にして、請求金額の上限を4分の 1に下げた場合の全体の削減額を計算すると、次のようになる。 請求金額の上限の総額に関する数値は現在把握していないので、上限の総額に対する 全体の請求割合が仮に80%であったと仮定して計算すると、 請求金額の上限の総額は、1億5000万円(程度)であり、 その4分の1は、3,750万円(程度)であるから、 削減額は、8,250万円(程度)となる。 (注:請求割合が高かった場合には、削減額が多く、低かった場合には、少なくなる) たった1回の選挙で8,000万円以上の無駄は、あまりにも大きいのではないか。 このような”明白な無駄使い”は、即刻、改めなければならない。 |
2009年4月 |