[吉田がんくつ王事件]


 吉田石松さん



====事件の概要====

 1913年8月13日、愛知県愛知郡千種町(現在の名古屋市内)の道路上で、繭を運 搬中だったTさん(31歳)が殺害され1円20銭を奪われた。翌日逮捕された2人の 供述により、同月15日に、吉田石松さん(当時34歳)が共犯として逮捕された。吉 田さんは一貫して否認を続けたが、他の2人と共に強盗殺人罪で起訴された。

 第一審の名古屋地裁は、吉田さんに「死刑」、他の2人には「無期懲役」を判決 した。(他の2人は罪を認め服罪)

 吉田さんの控訴に対して、名古屋控訴院は、第一審判決を取り消して、「無期懲 役」に減刑、その後、大審院への上告は棄却となった。

 服役中に2度の再審請求をなしたが、いずれも棄却となった。仮出獄後、先に出 獄していた2人を探し出し、2人それぞれより、無実の明かしとなる”詫び状”を 取った上で3度目の再審請求をなしたが、名古屋控訴院はその請求を棄却した。

 戦後に、名古屋高裁に対して行った4度目の再審請求も棄却となったが、1960年 に、日弁連人権擁護委員会の尽力により見つかったアリバイ証人を「新証拠」とし た第5回目の再審請求に対しては、名古屋高裁(第四部)が”再審開始”を決定。 その後、検察側の異議申し立てにより、名古屋高裁(第五部)が開始決定を取り消 す決定をなしたが、これに対する最高裁への特別抗告が法解釈の点から認められ、 名古屋高裁第五部の決定が取り消しとなり、再審裁判が開始となった。

 1963年2月28日、名古屋高裁は、吉田さんの”無罪”を明確な形で宣言。吉田さ んにとって、逮捕後”50年目の雪冤”であった。






#####視点#####
誤判への陳謝 - - - 裁判長の付け加えた言葉

 再審裁判で”完全無罪”を判決した名古屋高裁の小林登一裁判長は、判決理由の 読み上げが終わった後に、吉田さんに対して、過去の誤判を詫びる形で次の様に付 け加えた。

 「・・・ちなみに当裁判所は被告人、否ここでは被告人と言うに忍びず吉田翁と 呼ぼう。我々の先輩が翁に対して冒した過誤をひたすら陳謝するとともに、実に半 世紀の久しきにわたりよくあらゆる迫害に耐え自己の無実を叫び続けて来たその崇 高なる態度、その不撓不屈の正に驚嘆すべき類なき精神力・生命力に対し深甚なる 敬意を表しつつ翁の余生に幸多からんことを祈念する次第である。」

 冤罪を防ぎ、裁判に対する信頼感を増す為には、この様な真摯な形での”過去に 対する反省”が最も重要であると言えるかもしれない。






((( 略歴 )))
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 1913. 8.13---Tさん殺害される                             
       8.15---吉田石松さん逮捕される                       
 1914. 4.15---第一審判決(名古屋地裁)  ・・・ 死刑           
       7.21---第二審判決(名古屋控訴院)・・・ 無期懲役       
      11. 3---上告審判決(大審院)      ・・・ 上告棄却       
 1918. 3. 1---第1次再審請求棄却(大審院)                 
      11.22---第2次再審請求棄却(大審院)                 
 1935. 3.21---仮出獄                                       
 1936. 8.21---第3次再審請求  ==>  棄却                   
 1958. 1.18---第4次再審請求  ==>  棄却                   
 1960.11.28---第5次再審請求                               
 1961. 4.11---再審開始決定(名古屋高裁・第四部)           
       4.14---検察側が異議申し立て                         
 1962. 1.30---再審開始決定を取消し(名古屋高裁・第五部)   
       1.31---最高裁へ特別抗告                             
      10.30---名古屋高裁第五部の決定を取消し(最高裁)     
 1963. 2.28---再審判決(名古屋高裁) ・・・ 無罪              
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戦前の著名な事件

冤罪事件関係データベース