e_yakai

[八海事件]

　阿藤周平さん
　稲田実　さん
　松崎孝義さん
　久永隆一さん

====事件の概要====

　1951年１月24日夜、山口県熊毛郡麻郷村字八海で、Ｈさん夫妻｛夫（64歳）、妻（64歳）｝が殺害された。夫は寝室で頭部や顔面が血まみれになって死んでおり、妻は隣室で首を吊った姿で死んでいた為、夫婦間の殺人および自殺が疑れる状態であったが、現場検証の結果、妻の姿は自殺と思わせる為の偽装の可能性が強いと推測され、強盗殺人の線で捜査が開始された。

　捜査の結果、同月26日に、Ｙ（当時22歳）が逮捕された。Ｙは単独犯行であると自白したが、首吊り偽装等の状況からみて複数犯による犯行と決めつけていた警察は納得せず共犯者を追及した。Ｙは、知り合いの名前を口にして皆と一緒にやったと供述した為、稲田実さん（当時23歳）、松崎孝義さん（当時21歳）、久永隆一さん（当時22歳）、および後日釈放となった１名が28日に逮捕され、29日には阿藤周平さん（当時24歳）も逮捕された。

　４名は警察で「自白調書」をとられてしまうが、検察官の前では否認し、以後無実を訴えて裁判に臨んだ。

　第一審の山口地裁は、Ｙの供述を信用して、阿藤さんに「死刑」、Ｙも含む他の全員に「無期懲役」を判決。阿藤さんら４名は控訴した。（Ｙは罪を認め控訴しなかったが、検察側が全員に「死刑」を求め控訴した）

　控訴審の広島高裁は、３名を「懲役15年」と「懲役12年」に減刑したものの、阿藤さんに関しては控訴を棄却し「死刑」を維持した。（Ｙに関しては検察側の控訴を棄却、Ｙはその後服役した）

　この事件を題材にした映画『真昼の暗黒』が全国的に知られる様になる中、最高裁が下した判決は「高裁へ差し戻し」、差し戻しを受けた広島高裁の判決は、４名全員「無罪」だった。

　しかし、検察側は再度上告。最高裁での２度目の上告審は、再度「高裁へ差し戻し」を判決。それを受けた２次差戻審は、なんと、再び全員「有罪」を判決したのだった。

　阿藤さんらの上告を受けた３度目の最高裁は、ついに自ら判決を下した。その結論は４名全員「無罪」。
　”７度の判決”という世界的にも極めて稀な裁判の終了だった。

#####視点#####
告白潰し - - - 真犯人に対する裁判中の「取り調べ」

　４人を有罪にするキメ手の無い（有り得ない）この事件の裁判において、有罪判決を下した裁判官にとって最大の拠り所は、真犯人であるＹの供述であったが、そのＹも控訴審の直後から、諸方面に４名の無実を告白していた。

　しかし、担当検事がＹが服役していた広島刑務所に出張して取り調べをすると、「５人共犯説」に戻っていったのだった。その後も「４名の無実を訴える告白」と「それを取り消す供述」との揺れ動きが続くが、「５人共犯説」に戻る時には、常に検察側が関与していたと言われる。

　最終裁判となった第３次上告審において受理されたＹの上申書には、次の様に明確に書かれていた。

　『本件の強盗殺人には阿藤、稲田、松崎、久永らはぜんぜん関係ありません。つまり私の共犯ではありません。』

　真犯人の真摯な告白を「取り調べ」の名において潰していく事は、どの様な観点からいっても許されざる事であろう。

((( 略歴 )))

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1951. 1.24---Ｈさん夫妻殺害される

1.28---稲田実さん・松崎孝義さん・久永隆一さん逮捕される

1.29---阿藤周平さん逮捕される

2.15---強盗殺人で起訴

1952. 6. 2---第一審判決（山口地裁）･･･有罪（以下詳細下記）

1953. 9.18---控訴審判決（広島高裁）･･･有罪

1957.10.15---上告審判決（最高裁）･･･高裁へ差し戻し

1959. 9.23---差戻審判決（広島高裁）･･･無罪

1962. 5.19---第２次上告審判決（最高裁）･･･高裁へ差し戻し

1965. 8.30---第２次差戻審判決（広島高裁）･･･有罪

1968.10.25---第３次上告審判決（最高裁）･･･無罪

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　　　　　　　　＜＜＜　個人別判決詳細　＞＞＞　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　第２次　　第３次
　　　　　　　　　第一審　　控訴審　　差戻審　差戻審　　上告審
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　阿藤周平さん　　死刑　　　控訴棄却　無罪　　死刑　　　無罪　
　稲田実　さん　　無期懲役　懲役15年　無罪　　懲役15年　無罪　
　松崎孝義さん　　無期懲役　懲役12年　無罪　　懲役12年　無罪　
　久永隆一さん　　無期懲役　懲役12年　無罪　　懲役12年　無罪　

戦後の主な事件

冤罪事件関係データベース